
博士!
三角関数に入ってから、覚える公式が多すぎて頭がパンクしそうなんだけど。
特に「加法定理」ってやつ、\sin(\alpha + \beta) だったら普通に分配法則で \sin\alpha + \sin\beta にすればいいんじゃないの?

ふむ、多くの人が最初につまずくポイントじゃな。
前回の「【数学Ⅱ】三角関数のグラフとは?sin・cos・tanが波になる理由」で波の動きを見たが、角度を足したからといって波の高さがそのまま足し算になるわけではないのじゃ。

そうなの?
でも公式が多すぎて全部暗記するのは厳しいよ。

安心するのじゃ。
加法定理の基本となる式さえ理解しておけば、2倍角の公式も半角の公式も、すべて数行の手計算で自分で作り出せるのじゃ。
まずはなぜそのまま足せないのか、その原理から見ていこうかの。
加法定理とは?sin(α + β)がsinα + sinβにならない理由

そもそも、なんで \sin(30^\circ + 60^\circ) は \sin 30^\circ + \sin 60^\circ にならないの?

具体例で計算してみると一目瞭然じゃな。
左辺の \sin(30^\circ + 60^\circ) は \sin 90^\circ じゃから、値は 1 になるの。

うん、\sin 90^\circ = 1 だね。

一方で、右辺の \sin 30^\circ + \sin 60^\circ を計算してみるのじゃ。
\sin 30^\circ + \sin 60^\circ = \dfrac{1}{2} + \dfrac{\sqrt{3}}{2} = \dfrac{1 + \sqrt{3}}{2}

\sqrt{3} は約 1.73 じゃから、この値は約 1.365 になる。
1 と 1.365 では値が全く一致しないじゃろう?
角度を足しても直角三角形の高さは単純な足し算にならない

本当だ!全然違う値になっちゃうね。
なんで分配法則みたいに掛け算っぽくバラしちゃダメなの?

\sin は「掛け算する数」ではなく、「角度を入れると高さを計算してくれる装置(ルール)」だからじゃな。

あ、掛け算の「×3」みたいな数そのものじゃないんだ!

そうじゃ。
角度を2つまとめて装置に入れて計算するのと、別々に装置に入れて出てきた高さを後から足すのとでは、まったく意味が変わってしまうのじゃよ。

あー、\sin は掛け算の数じゃないから、勝手にカッコを外して分配しちゃダメなんだね。

その通りじゃ。
直角三角形や単位円で考えたとき、角度を \alpha + \beta と合成して作られる回転位置のy座標(高さ)は、元の2つの角度の高さ単体を足したものではなく、互いの \sin と \cos が複雑に絡み合った形になるのじゃ。
単位円上の2点間距離から導く加法定理の考え方

じゃあ、正しい加法定理の公式ってどういう形なの?

加法定理の基本となる4つの公式を整理しておこうか。
\sin(\alpha + \beta) = \sin\alpha \cos\beta + \cos\alpha \sin\beta
\sin(\alpha - \beta) = \sin\alpha \cos\beta - \cos\alpha \sin\beta
\cos(\alpha + \beta) = \cos\alpha \cos\beta - \sin\alpha \sin\beta
\cos(\alpha - \beta) = \cos\alpha \cos\beta + \sin\alpha \sin\beta

うわ、聞いたことある公式だ!

この公式の証明にはいくつか方法があるが、代表的なのは単位円上に角度 \alpha と -\beta のふたつの点をとり、その2点間の距離を余弦定理と三平方の定理(座標)の2通りの方法で表してイコールで結ぶ方法じゃな。

2通りの方法で距離を計算して比べるんだね。

そうじゃ。
詳細な幾何的証明は教科書にも載っておるが、大切なのは「\cos(\alpha - \beta) の公式が1つ証明できれば、\beta を -\beta に変えたり、90^\circ - \theta の公式を使うことで、残りの3つはすべて自動的に導出できる」という点じゃ。
なぜ加法定理から2倍角・半角の公式が生まれるのか

加法定理の形はわかったけど、教科書にはこのあとに「2倍角の公式」とか「半角の公式」とか、さらに新しい公式がたくさん出てくるんだけど…

そこが多くの人が勘違いする罠じゃな。
「新しい公式が増えた」と思うから大変に感じるのじゃ。
実は、2倍角も半角も、加法定理に代入をしているだけに過ぎないのじゃよ。
βにαを代入するだけで導ける2倍角の公式

代入するだけ?どういうこと?

加法定理の \sin(\alpha + \beta) の式において、\beta の部分に \alpha をそのまま代入してみるのじゃ。

\beta を \alpha に置換するの?やってみるね。
\sin(\alpha + \alpha) = \sin\alpha \cos\alpha + \cos\alpha \sin\alpha

あ!左辺は \sin 2\alpha になって、右辺は同じ項が2つあるから 2\sin\alpha \cos\alpha になる!

その通りじゃ!これが「2倍角の公式」の正体じゃ。
\sin 2\alpha = 2\sin\alpha \cos\alpha

\cos 2\alpha も全く同じじゃ。\cos(\alpha + \beta) に \beta = \alpha を代入すれば良い。
\cos 2\alpha = \cos^2\alpha - \sin^2\alpha

すごい!
加法定理さえ知っていれば、すぐに自分で作れるんだね。
cos2αを変形して乗数を下げる半角の公式

さらに、\cos 2\alpha の公式に相互関係 \sin^2\alpha + \cos^2\alpha = 1 を代入すると、\cos 2\alpha = 1 - 2\sin^2\alpha と形を変えられるのじゃ。

ふむふむ。

この式の \sin^2\alpha について解き直して、\alpha を \dfrac{\theta}{2} に置き換えてみるのじゃ。
\sin^2 \dfrac{\theta}{2} = \dfrac{1 - \cos\theta}{2}

これが半角の公式なんだ!

そうじゃ。
2倍角の公式を \sin^2 や \cos^2 の形に整理し直したものが半角の公式じゃな。
つまり、独立した公式ではなく、加法定理の親戚に過ぎないのじゃよ。
加法定理と派生公式を使いこなす計算手順

公式の関係性はよくわかったよ!
実際に問題を解くときはどういう手順で考えればいいの?

手順を3つのステップで整理しておこうか。
1. 求める角度を有名角(30°, 45°, 60°など)の「足し算」または「引き算」に分解する。
例:75^\circ = 45^\circ + 30^\circ、15^\circ = 45^\circ - 30^\circ
2. 適切な加法定理の公式に当てはめ、各有名角の三角比の値を代入する。
3. 2倍角や半角が必要な場合は、丸暗記した式を探すのではなく、加法定理から変形して式を作る。
演習問題と解説
問題 1 の解答
式:\sin 75^\circ = \sin(45^\circ + 30^\circ) = \sin 45^\circ \cos 30^\circ + \cos 45^\circ \sin 30^\circ = \dfrac{\sqrt{2}}{2} \times \dfrac{\sqrt{3}}{2} + \dfrac{\sqrt{2}}{2} \times \dfrac{1}{2} = \dfrac{\sqrt{6} + \sqrt{2}}{4}
答え:\dfrac{\sqrt{6} + \sqrt{2}}{4}
解説:75^\circ を有名角である 45^\circ + 30^\circ に分解し、\sin(\alpha + \beta) の加法定理を適用します。各項に \sin 45^\circ = \dfrac{\sqrt{2}}{2}、\cos 30^\circ = \dfrac{\sqrt{3}}{2} などを代入して計算します。
問題 2 の解答
式:\sin^2\alpha = 1 - \cos^2\alpha = 1 - \left(\dfrac{4}{5}\right)^2 = \dfrac{9}{25}
0 < \alpha < \dfrac{\pi}{2} より \sin\alpha > 0 なので \sin\alpha = \dfrac{3}{5}
\sin 2\alpha = 2\sin\alpha \cos\alpha = 2 \times \dfrac{3}{5} \times \dfrac{4}{5} = \dfrac{24}{25}
答え:\dfrac{24}{25}
解説:まず相互関係を用いて \sin\alpha の値を求めます。角 \alpha が第1象限にあるため \sin\alpha > 0 となります。次に2倍角の公式 \sin 2\alpha = 2\sin\alpha \cos\alpha にそれぞれの値を代入して解を求めます。
まとめ:公式の丸暗記から脱却しよう

公式が山ほどあって大変だったけど、加法定理っていう1個の「幹」から枝分かれしてるだけって分かったらすごく気が楽になったよ!

そう言ってくれると嬉しいのぅ。
数学公式の多くは、暗記物ではなく「導出の道具」じゃ。
根本となる加法定理の仕組みを理解しておけば、派生公式を忘れてもその場で作ることができるのじゃよ。

次はこの加法定理を使って三角関数を1つにまとめる「合成」に進むんだね。

その通りじゃ。
加法定理の逆の操作を行うのが三角関数の合成じゃから、今回の内容をしっかり復習しておくと次のステップもスムーズに進めるぞ。


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